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執筆者の写真川崎寛也

10. 驚き・インパクトがある

料理人が考えていること」の10要因を考えてきたが、その最後となるのが、驚き・インパクトがあること、である。


過剰な装飾によって、料理に驚きを演出することは簡単である。しかし、日本料理に重要な「品」を感じさせながら「驚き」を体験させることを目標としなければいけない。感情を動かすことによって初めて記憶に残る体験となる。驚きというのは期待値とのギャップであろうから、食べさせる前の期待を高め、さらにそれを上回らなければいけない。





「料理人が考えていること」にも書いたように、月刊専門料理で長く連載されている、柴田日本料理研鑽会の「京料理のこころみ」を読み解くことによって、日本料理人の思考過程を分析し、重要なポイントを10個見出し、その関係性を社会科学の手法を使って明らかにした。


「京料理のこころみ」の内容をまとめて再編集した書籍で、その結果を示した。


その中で、「驚き・インパクトがある」は、他の要因から影響を受ける「結果要因」に位置づけられていた。さらに、日本料理人においては、「驚き・インパクトがある」に最も影響していたのは、「主素材の旨みが引き出されていること」であった。このことは、今回データをとった日本料理人は、新しい料理を考えるとき、主素材の旨みを引き出すことで、驚き・インパクトがある料理になる、と考えていることを示している。


興味深いのが、フランス料理人においては、「驚き・インパクトがある」が、やはり他の要因から影響を受ける「結果要因」だったが、それに最も影響していたのが、「主素材の風味が生かされていること」だったことである。このことは、今回データをとったフランス料理人は、新しい料理を考えるとき、主素材の風味を活かすような料理にすることで、驚き・インパクトがある料理になる、と考えていることを示している。


日本料理人とフランス料理人にとって、同じく驚き・インパクトを感じさせるとしても、そのツールというか、考え方の戦略が異なっていた、ということである。


「主素材の旨み*が引き出されていること」は、単にだしや醤油などを使う、ということではないので、主素材の持つ美味しい成分(うま味*成分も含む)が感じられるような仕立てであることである。一方、「主素材の風味を活かす」というのは、とくに香りに着目していることを示している。


家庭料理に驚きは不要だが、料理店の料理においては、ある程度の驚きが必要な場合がある。盛り付けなどで驚きを演出することは簡単だが、それは本質的ではなく、日本料理においては、例えば素材から旨みの引き出し方などで工夫するなどによって、驚きを演出するような方向性を考えるべきである。そうすることによって日本料理らしさに重要な「わざとらしくない」「白々しくない」料理になりうる。



*うま味・旨み・旨味の使い分け


うま味:グルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウム・グアニル酸ナトリウムの味で、五基本味の種類の一つ。うま味を感じさせる成分をうま味成分という。


旨み・旨味:うま味成分から感じられる味を含み、塩味や食材の風味も含む総合的な美味しさ。


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