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執筆者の写真川崎寛也

「アク」をあやつる


アクは悪か?


春も近づき、フキノトウなどの山菜が出てきています。山菜といえばアク。しかし、ブイヨンなどを取るときにもアク、という言葉を使います。では、これらは同じものなのでしょうか。


例えば、鶏を焼いてそのまま食べてもアクを感じませんね。


ということは、そもそもアクとは、肉の中にあるものではないのではないでしょうか。もしアクが肉の中にいっぱいあるのであれば、ローストチキンはアクの味がして美味しくないのでは?


また、ナスはアクが強いので、切ったら水に浸けてアクを抜く、といいます。ではなぜ丸ごと焼いた焼きなすにアクの味を感じないのでしょうか?


実はアクにはいくつかの種類があります。大きく分けて動物性のアクと植物性のアク。


今回はこれらを整理してみました。




動物性のアク


動物性のアクとは動物の筋肉や骨を熱水抽出した際に、たんぱく質が脂質を取り囲んで対流によって浮いてきたものを言います。


加熱温度が低かったり対流がないとアクは出にくいことは経験していると思います。

このたんぱく質には、鉄を含むヘモグロビン(血液中)やミオグロビン(筋肉中)が含まれるため、加熱されると茶-灰色に変色します。





アクの匂い


畜肉系だしのおいしい匂いは、メイラード反応による香ばしさと脂質酸化物です。

しかし、表面に浮いてきた脂質は酸化が進み、血なまぐさいと表現されます。


これは、たんぱく質には、鉄を含むヘモグロビン(血液中)やミオグロビン(筋肉中)が含まれ、鉄の強力な酸化力よって、脂質酸化が非常に進み、「臭み」と感じるほどになるためです。


浮いてきて初めて取れるのですが、浮いてくると酸化するので、臭くなる、というのは.ジレンマですね。でもしょうがない。


フランス料理ではミジョテ、中国料理では菊花芯などと火加減は説明されますが、これは、ある程度の対流によってアクを浮いてこさせつつ、再度沈めないようにという火加減の口伝ですね。


アクを取らなくても、ハーブやタマネギを同時に加熱すると臭みを感じにくいという報告があります。


日本料理で、スッポンは、丸仕立てといい、酒と生姜をたっぷり使って煮ます。スッポンの脂質は不飽和脂肪酸が多いので、酸化されやすいため、酒のアルコールが揮発するのを利用して、酸化脂質を揮発させているのです。共沸といいます。


酒、生姜なしでスープを取ると、口に入れた瞬間に臭みがありますが、その後の風味はスッポンです。酒と生姜は口に入れた瞬間の臭みを感じさせなくさせる効果があるのでしょう。


アクの味


アク成分の味質としては、苦味、渋味、えぐ味が挙げられます。

たんぱく質のうち、苦味を感じさせるようなたんぱく質があるので、それの可能性もありますが、詳細は不明です。

たんぱく質の加熱反応物によるコク、という報告もあります。


水の硬度とアク


硬水中のカルシウムとたんぱく質が結合しやすいため、アクとして浮遊しやすいので、取りやすいですね。


つまり、動物性のアクとは、水の中で加熱された筋肉から出てきたミオグロビンという鉄を含むたんぱく質が、脂質を取り囲んで、対流によって浮いてくるために、水面で脂質が過剰に酸化されたものとの複合体であると考えられます。



植物性のアク


植物性のアクとは、植物の持つポリフェノールやカルシウム、マグネシウムなどのことです。

渋味やエグ味の成分であると考えられます。

本来、植物が自分の体を守るための成分であるため、皮など外界にさらされる部分に多いようです。


アクを取り除く


植物のアクは水溶性が多く、細胞壁を壊せば、水にさらしておくだけでも溶出します。

ホウレンソウなどに含まれているシュウ酸は、苦み、えぐみをもたらしますが、カルシウム成分と一緒に煮ることにより、不溶性のシュウ酸カルシウムとなって味覚で感知できなくなります。

味成分も水溶性のため、アクを取り除くための水晒しは、おいしい味成分の流出にもなるので、注意が必要です。


アクの色


植物のアクのうち、ポリフェノール系のものには色素となるものもあります。

ナスの皮のアントシアニンなどは、水溶性の色素で、酸性で赤色、弱アルカリ性で青紫色、強アルカリ性で分解します。


ちなみに、アントシアニンは、60℃〜100℃だとアントシアナーゼという分解酵素により分解しますが、100℃以上だと酵素が失活するので安定します。ナスはいきなり揚げたりした方が色がきれいなのはこのせいです。


ナスの白い部分にもまた違うポリフェノールがありますが、切り口に酸素が触れると、酸化酵素という酵素によって、酵素的褐変という反応が起こり、茶色く変色します。しかし、水に浸ける、つまり、酸素に触れなくすると、酵素的褐変が怒らないために、変色しません。

ということは、切ったナスを水に浸ける、というのは、アクの成分を水に溶かし出しているのではなく、色を変えなくしているだけです。焼きなすのように、丸ごと加熱すると、酵素が失活するので、変色はしません。


小豆の渋はサポニンです。小豆の渋切りをするとサポニンも除けますが、小豆の色素もアントシアニンなので、同時に色素も水に溶けて出ていってしまいます。アントシアニンは酸化させることで色が濃くなるため、小豆を煮るときにお玉で何度もすくうのはこのためです。


灰アク


炭酸カリウムが主成分であるため水に溶かすとアルカリ性になります。

アルカリ性水溶液で植物をゆがくと、ペクチン(植物細胞壁の接着剤)とヘミセルロース(細胞壁の成分)が溶けやすくなるため、山菜を灰アクにさらしたりするのはこのためです。



まとめ


動物性のアク


動物性のアクを取り除くことは、うま味やコクを少し犠牲にして脂質酸化物を取り除くこと、なのかもしれません。


植物性のアク


植物性のアクは苦味やエグ味、渋味を呈し、水溶性のものが多いので、茹でたり水にさらしたりすることで、雑味が減ります。

ただし、味成分も水溶性のためにうま味や甘味も流出する可能性があります。






無知の知


ナスのアクを抜く、という調理技術は、色を止めるという意味では価値のある技術です。そのメカニズムの解釈が違っていただけで。


伝統的な調理技術には、必ず残ってきただけ価値があり、間違っていることはないのです。

適切な表現をすればよいだけだと思います。


似たような事例は、例えば「肉を焼く前に常温に戻す」という表現があります。

常温とは、室温のことだと思いますが、牛が生きていたときから、筋肉がその温度になったことはあるのでしょうか。


つまり、「肉を焼く前に、室温まで、室温で加熱する」ということをしているのです。それによって、焼く調理をやりやすくなるのは間違いありません。


あと、あまり言いたくはありませんが、化学調味料、というのも。おそらく物質としては、グルタミン酸ナトリウムのことで、いわゆるうま味調味料だと思います。化学調味料とは、化学的な処理によって作った調味料、という意味だとすると、実は、うま味調味料は何十年も前から発酵で作っているということを会社に入って知りました。なので、現代では「化学調味料」というものは世の中に存在しなかったのです。



科学的なことを知っていること、科学的な考え方をすることは、これからの料理人にとって重要だというのは、多くの料理人が言っています。科学は多くのことを見えるようにすることで、理解しやすくします。ただし、全て理解できてコントロールできるわけではありません。


逆に、こういう時代だからこそ、見えない価値やコントロールできない価値が重要になってくるはずです。


知れば知るほど、何がわかっていて何がわかっていないかがわかりますね。

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