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執筆者の写真川崎寛也

「新しい料理をデザインする」考え方2


「新しい料理をデザインする」考え方 では、「新しい料理を考える考え方」を整理することを目的に、いくつかの考え方を示した。


それが整理されて、使いこなせるようになれば、天才シェフでなくても、独創的な料理を考えることができるのではないかと考え、料理人の限られた時間を、いかに創造的な時間として使うかに使えるようになると信じている。


第2弾として、もう少し具体的な話を書いてみる。


新しい料理、と行っても色々な段階があることは第1段で整理した。


新しいことは、何かと何かの組み合わせで得られることが多く、とくにマトリックス法は、考えやすいと思っており、今回はいくつかの考え方を示す。


また、ガストロノミーにおいては、驚き、はある程度必要とされている中、その視点を持ちつつ考えている。


1. 高級食材 × B級グルメ的な仕立て


菊乃井の村田さんと料理の考え方について話ししていたとき、興味深い言い方をされていた。


「新しい食材は普通の仕立てで、普通の食材は新しい仕立てがええ」

これは、食材も仕立ても普通だと普通の料理であるし、食材も新しく仕立ても新しいと、斬新すぎて客がついてこない、という意味だった。


実は、心理学的にいうと、「親近性と新規性のバランス」が大事であるという話がある。


まさに村田さんの考え方はこのバランスを考えていると思われる。


高級食材をB級グルメ的な庶民的な仕立てで出すのはその最もわかりやすい例であろう。


高級食材をB級グルメ的な仕立てにすることで、客の様々な感情を引き起こすことができ、ガストロノミーとしても成立するので、心を動かす料理としては効果的である。


しかし、高級食材はそれだけで美味しかったり、逆に処理に制約があったりするので、B級グルメ的な仕立てにする場合には、逆に難しいことも多い。


例えば下のマトリックスでいうと、フォワグラは温度が上がると溶けてしまうので、できる仕立ても限られてくる。


もしこのマトリックスの空欄を埋めるために、何らかの技術が必要ということがわかれば、オリジナリティとして発表できるだろう。


2. 安い食材 × 高級仕立てというか工夫した仕立て


1とは逆に、安いというか馴染みのある食材をガストロノミーとして仕立てるために、高級な仕立てというか工夫した仕立てを考えるのも多く用いられる考え方である。


客にとっても馴染みがある食材がガストロノミーとして出されると、驚きをもって受け入れられやすいだろう。


しかし、このマトリックスにこそ、技術が必要となることが多い。このような食材は、脂が多かったり癖が強かったりするので、それをある程度残さないと意味がないし、残しすぎると安っぽくなるので、難しいところであろう。


仕立て自体もクラシックなものであれば、その技術の高いレベルが求められる。



3. リエゾン


リエゾンとは、フランス語の発音の一種であるが、何かと何かをつなぐ、という意味で使うこともある。


フランス料理では、皿の中でソースがリエゾンとなってメイン食材とガルニチュールをつなぐという表現もされる。


とくに近年は、ソースがない料理も多く、その場合は、食材同士の相性の問題になってくる。


ワインの世界でよく言われる料理とワインの相性は、同じ傾向の香りがあると相性が良いとされるが、料理においても、その影響なのか、共通の何らかの要素があれば、それをリエゾンとして捉えることも多い。


人間の口の中の感覚としては、味覚・嗅覚・触覚であるので、それぞれの食材から感じられる感覚をリエゾンとすることで、下のようなマトリックスを考えてみよう。


例えば、牛肉は脂やアミノ酸の甘味があり、うにもアミノ酸の甘みがある。そこで、牛肉とうにの組み合わせは可能性がある、と考えるのである。この組み合わせは実際近年よく使われている。


さらに、食材には様々な顔があるので、牛肉を香ばしく焼くということを考えると、メイラード反応の香りがあり、カカオはメイラード反応があるため、牛肉とカカオもこのマトリックスで示される。


つまり、重要なのはそれぞれの食材が持つ特徴を自分なりに発見するか、にかかっている。



4. ヘテロ感


最後は、ヘテロ感である。


ヘテロ感とは、不均一さを感じることである。


以前から専門料理や関西食文化研究会でも話していることではあるが、均一のものよりも不均一さを感じるほうが、価値が高いとされる。


専門料理の連載では、瓢亭の高橋義弘さんとの回だったが、真蒸をあえて伝統的な蒸し缶で蒸すことでヘテロに仕上げるようにしているというのが印象的であった。


ヘテロ感は、感覚としてどこで感じさせるかも考える必要がある。下の表では、味覚・嗅覚・食感(触覚)、温度と分けた。さらに、それぞれの感覚は、質・強度・時間の情報を伝えるので、それぞれの組み合わせでヘテロに感じさせることができる。


このマトリックスでは、かなり大枠で捉えてみた。


たとえば、吹寄せ盛りであっても、大きく捉えると、異なる質のものを一つの皿に盛り合わせることであり、その組み合わせの妙を楽しんでいただく料理と捉えられる。


たとえば、食感と質、の組み合わせにある「天ぷらの衣と食材」は、天ぷらの価値は食感のヘテロ感として、衣はサクサク、中の身はふわふわ、のような質の異なる組み合わせの食感であると捉えられる。


たとえば、温度と強度、の組み合わせにおける、フローズンフォワグラパウダーとコンソメは、凍った温度のフォワグラと熱々のコンソメを同時に味わわせることで、温度のヘテロ感による驚きを演出する。


以上のように、マトリックス表自体は、縦と横の要素の組み合わせによって、オリジナリティを発揮できるし、自分なりの組み合わせを見出しやすくなるのではないだろうか。


自分の興味を持っている要素を組み合わせて、考えてみてほしい。




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