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執筆者の写真川崎寛也

メイラード反応

メイラード反応とは、ざっくりいうと「アミノ酸と糖の加熱反応」である。加熱することによって褐変(褐色に変化すること)している食材のほとんどは、メイラード反応が起こっている。世界中の食品、料理に見られるので、料理人にとって重要であるのは間違いない。


2011年に関西食文化研究会で「料理人のためのメイラード反応」について紹介した。今となっては料理人の間でかなり一般的になったと思われる。改めて、簡単にまとめておきたい。




水に溶かす香り

興味深いことに、メイラード反応生成物は水溶性のものが多い。醤油の重要な香気成分の一つのソトロンは水溶性である。湯(タン)とかフォンとかブイヨンは、うま味成分を肉から抽出して、メイラード反応生成物を加熱によって生成させて、それを水に溶かしたものであるといえる。フォン、湯(タン)、ブイヨンはうま味成分と加熱された香気成分が溶けた状態である。


肉を焼く

肉をフライパンで焼くと、焼け焦げた部分ではメイラード反応が起こっている。


この動画は、耐熱ガラスに肉を載せ、下から撮影したものである。つまり、焼かれている肉を下から見ている状態である。



それをフランス料理ではsucと呼んで、そのsucを溶かしたものをソースのベースに使う。Sucはアミノ酸が濃縮されたものとメイラード反応でできたものである。両方、水溶性なので、デグラッセは油脂で行わずに、ワインや水で行うのである。肉が加熱されてメイラード反応を起こしたものを肉につけて食べるのがステーキである。それが水に溶けたのがブイヨンといえる。おいしいと思っている成分はステーキでもブイヨンでも同じようなものである。それが大量の水に溶けているか、肉に付着して味が濃くておいしいかの違いではないだろうか。


<メイラード反応が起こっている食材>

➢日本料理:鰹節、焼き魚、醤油、みりん、味噌など

➢フランス料理:各種Fond、glace、焼いた肉など

➢中国料理:醤(ジャン)などの調味料、スープ類、焼いた肉、北京ダックなど

➢その他:コーヒー、チョコレート、ビールなど


糖とメイラード反応

メイラード反応を起こしやすい糖を含む食材としては、みりん(ブドウ糖)、ハチミツや果汁(果糖)、麦芽(麦芽糖)、牛乳(乳糖)などがある。バターもタンパク質が0.6%、乳糖が0.2%含まれているため、メイラード反応を起こしやすい食材である。


糖の中でも、ショ糖、いわゆる砂糖はメイラード反応を起こさない。砂糖を加熱して茶色くしてプリンの頭にするのは、食品科学的には「カラメル化反応」という。


2つのガストリック

ショ糖はメイラード反応を起こさないが、酸を加えて強加熱するとブドウ糖と果糖に分解されることがわかっており、そこにアミノ酸が加わるとメイラード反応を起きる可能性がある。これを活用したのがフランス料理の「ガストリック」だと考えている。フランス料理ではガストリックをソースのコク付けに使う。


メイラード反応から考えると、ガストリックには2種類の作り方がある。一つは、砂糖を焦がした後、酢を入れて温度を下げる、という方法。これは、メイラード反応ではなく、カラメル化反応を起こした後、酢を入れる、ということになり、甘く苦い酸っぱい味になる。ガストリックの語源から考えるとそれで良いのかもしれない。


もう一つが、砂糖を酢に溶かしたものを強加熱する方法。こちらは、メイラード反応が期待されるので、香りが異なったものになる。メイラード反応カラメル化による甘い香りだけでなく、メイラード反応の香ばしい香りも加わる。


ガストリックがメイラード反応の香りであるなら、フランス料理だけでなく、他の料理にも使えるのではないか。例えば、醤油にガストリックを混ぜてみると香ばしい醤油になった。砂糖に酢を混ぜて強加熱した後、醤油を入れて温度を下げたのである。




メイラード反応とカラメル化反応の香りの違い

カラメル化反応の香気成分はいわゆる「甘い香り」になるが、メイラード反応の香気成分は多岐に渡る。


<メイラード反応とカラメル化反応の香気成分の違い>

メイラード反応の香り

• うま味を連想させる香り

• 花のにおい

• タマネギや肉のにおい

• 緑黄色野菜のにおい

• チョコレート臭

• ジャガイモや土のにおい

• カラメル化による風味全般


カラメル化反応の香り

• 甘味

• 酸味

• 果実臭

• シェリー臭

• バタースコッチ臭

• カラメル臭

• ナッツ臭


また、メイラード反応に硫黄を含むネギ類が入り込むと、肉を彷彿とさせる香気成分が生成すると言われている他、油脂が反応に加わることによっても香気は異なってくる。


だしとメイラード反応

燻製の成分も水溶性が多い。日本の鰹節だしは世界で唯一、燻製の成分を使う。日本のだしはうま味成分とメイラード反応の生成物と燻製の成分が含まれているのである。日本の昆布はグルタミン酸、鰹節はイノシン酸とメイラード反応生成物と燻製の成分を水に溶かしたものである。西洋料理は肉類に含まれるさまざまなアミノ酸とか野菜の糖とかが加熱されてメイラード反応が起こったものといえる。中国料理の場合も西洋料理と似たような反応が起こる。中国料理は野菜をそんなにたくさん入れることはないので、そこまでメイラード反応が起こらない。西洋料理のコンソメはかなり茶色だが、中国料理はそこまではない。


日本料理とメイラード反応

メイラード反応は単なる化学反応なので、食文化にかかわらず、たんぱく質・アミノ酸・糖が存在し加熱される状況であれば、世界中どこの厨房でも起きる。日本料理では、だしや醤油、味噌(とくに赤味噌)だけでなく、焼くことによるメイラード反応が多く活用されている。とくに炭火は、温度が高いのでメイラード反応は早く進む。しかも一酸化炭素が発生しているため、脂質酸化が起こりにくく、メイラード反応の香りの方が強調される。




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