これまでプロの料理人向けに料理を科学的に捉えるということを、講演したり執筆したりしてきました。特にトップシェフとの対話の中では、料理の本質とは何か?を一緒に考えたと思います。
ところが、2024年はなぜか料理の初学者に対してどう考えていくか?ということをやった年でした。
それで改めて気づいたのは、実は初学者にも料理の本質の理解が必要であり早道であるということでした。どんな分野でもそうですが、教科書はとてもよく出来ていると改めて思うものです。
では、料理の基本を学ぶとはどういうことでしょうか。
月刊専門料理での連載をまとめた「おいしさをデザインする」
において、料理を言語として捉える、ということを提案しました。


ここでも指摘した通り、料理と言語は似ているのではないか?と思ったのです。
そこで、改めて、「料理を学ぶこと」と「言語を学ぶこと」の意外な共通点について考えてみました。
料理も言語も「学ぶ」という点では共通していますが、プロセスを見てみると、さらに驚くほど似ています。学びのステップごとに、その対応を見ていきたいと思います。
ステップ1: 読んで理解する
まずは**「読むこと」からスタートします。これは、言語学習でも料理でも同じです。
料理の場合
最初にするべきことは、レシピを読むことです。
食材、調味料、分量、調理方法など、レシピにはたくさんの情報が詰まっています。この情報を正確に理解することが、第一歩です。
例えば、「にんじんを千切りにする」や「中火で炒める」という指示が意味する作業をイメージできなければ、スムーズに進みません。
基本的な調理用語や調味料の役割を少しずつ学びながら、「レシピを読む」つまり「レシピを理解する」ことが最初なのでしょう。
月刊専門料理などに書かれているプロ向けのレシピは、情報が少ないものです。これは、プロ同士ならわかる暗黙知が多いからです。日本語で言うと川柳とかに当たるのかもしれません。
言語の場合
言語学習も、まず文章を読んで理解するところから始まります。
単語の意味、文法の構造、全体の流れを把握することが大事です。
簡単な文章や短文からスタートし、少しずつ長い文章に挑戦するのが普通です。
ステップ2: 実践する
次に大事なのは、「実際にやってみること」です。
料理の場合
レシピを読んで理解したら、次はその通りに作ってみるステップです。
初めての挑戦では失敗するかもしれませんが、これは自然なこと!重要なのは、手を動かしながら学ぶことです。
例えば、「玉ねぎを炒める」といっても、どのくらい炒めるのが正解なのかは実際にやってみないとわかりません。
繰り返し実践することで、レシピに書かれていない「感覚」をつかむことができるようになります。
言語の場合
言語では、文章を声に出して読むことがこれに該当します。
音読やシャドーイングを通じて、発音やリズム、言葉の流れを身体で覚えていきます。
例えば、英語の「I like apples.」を何度も声に出してみることで、正しい発音と自然なイントネーションを身につけることができます。
ここで、私の場合は、英語やフランス語の発音がかっこいいな、とか思ったものです。
ステップ3: 創造する
最後は、学んだ知識を活用して「自分で何かを作り出すこと」です。
料理の場合
基本的な料理の技術や味のバランスを覚えたら、新しいレシピを考える段階に進みます。
冷蔵庫にある食材を見て「これで何が作れるだろう?」と考えたり、自分好みのアレンジを加えたりするのが楽しいところです。
例えば、余った野菜でオリジナルスープを作ったり、基本の炒め物をスパイスでアレンジしたりすることで、料理の幅が広がります。
言語の場合
言語では、自分で文章を紡ぎ出すことがこれに当たります。
学んだ単語や文法を活用して、自分の考えや気持ちを表現するのです。
例えば、「昨日は楽しかった」と言いたければ、「Yesterday was fun.」という文章を自分で作り出します。
短い文章から始め、少しずつ長い文や複雑な表現にも挑戦していくのが普通です。
学びは繰り返しと応用で深まる
どちらの場合も、基礎を学び、それを繰り返し実践しながら応用していくことで、スキルが磨かれます。そして、最終的には自由にアレンジしたり、表現したりできるようになります。
まとめ
料理を学ぶプロセスを言語学習に例えると、このようになります:
読む → 理解する
レシピを読む/文章を読む。基礎知識を学ぶ段階。
実践する → 作る
レシピ通りに作る/文章を声に出して読む。技術を体で覚える段階。
創造する → 表現する
新しいレシピを考える/文章を作り出す。応用力を発揮する段階。
この3ステップを繰り返すことで、料理も言語も「できること」がどんどん広がっていきます。
では、このプロセスを「豚汁」を例に考えてみましょう。(なぜ豚汁か?は置いておいて)
「豚汁」を読む → 理解する
「豚汁」という名前を聞くと、多くの人が「豚が主役の汁物」と思いますよね。でも、実際にレシピを読んでみると、意外な事実が見えてきます。
豚汁には、豚肉、大根、ごぼう、人参、こんにゃくなどのたくさんの食材が入ります。しかし、よく考えると、豚肉は主役ではなく、だしをとるためのサポート役だということがわかります。
豚肉を炒めることで、メイラード反応が起こり、香ばしい香りが生まれます。そして、その油が根菜に絡むことで、具材がより美味しくなるのです。つまり、豚汁の主語は根菜であり、「根菜の豚だし煮、味噌風味」とでも理解した方が、豚汁の理解が正確なのでは?と思ったりします。
「豚汁」を作る → 実践する
次に、実際に豚汁を作ってみましょう。レシピに忠実に従い、豚肉を炒める、具材を煮る、味噌を溶かす……と手順を進めることで、頭で理解したことが体で実感できるようになります。
例えば、「豚肉を炒めるだけでこんなに香りが出るんだ!」とか、「根菜を煮ると自然な甘みが出てくるんだ!」といった気づきがあります。このプロセスを繰り返すことで、レシピに書かれていない感覚的な部分も身についていきます。
「豚汁」をアレンジする → 創造する
最後は、自分なりの豚汁を作る段階です。例えば:
冷蔵庫に残ったキャベツやきのこを入れてみる。
味噌を赤味噌と白味噌でブレンドしてみる。
ごま油や七味唐辛子で風味をプラスする。
こうしたアレンジを加えることで、オリジナルの豚汁を作り上げることができます。ここまでくると、豚汁という料理が「ただ作るもの」ではなく、自分の表現の場に変わります。
料理も言語も、繰り返し学ぶことで理解が深まり、アレンジや応用ができるようになります。
学びの本質を楽しもう!
今回、豚汁を例に料理と語学学習の共通点をお話ししましたが、どちらにも共通するのは「本質を知ること」の大切さです。豚汁の主役が豚肉ではなく根菜であるように、言語でも単語や文法を超えた背景や使い方を理解することで、学びが何倍も楽しくなります。
料理も言語も、失敗を恐れずにどんどん実践していきましょう。そして、「新しい発見」を楽しむ心を忘れないでください。
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