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執筆者の写真川崎寛也

料理人の疑問 だしをひく条件




料理人の疑問を募集していましたが、ある程度まとまって来ましたので、記事にしたいと思います。


まずは、「だしをひく条件」について、このような3つの質問をいただきました。


質問

・出汁をとる時間や温度について。

昆布と鰹節は温度帯何度でどれくらいの時間など化学的な数字を知りたいです。

昆布を一晩おく店がほとんどですが、適切な温度は60°付近ではないんでしょうか。また、鰹節の時間は10秒で漉す店と何分も煮出だす店の違はすごく違うのではないでしょうか。

・一番出汁で昆布出汁を引く時の最適な温度は何度なのでしょう?

 「特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター」が60℃で1時間というのをいいますが昆布の旨味全て出し切るという意味ではそれで良いのでしょうが、それと食い味は違うと思います。また水出しというのもあって最適解を測りかねます。昆布の欲しい所だけを一番出汁として抽出するのに適した本当の答えが聞きたいです。これは好みもあるので独断と偏見で構いません。


回答

「最適」や「適切」な条件という表現は、難しいところで、昆布にしろ鰹節にしろ、様々な成分が、様々な条件で溶け出すため、温度や時間をコントロールすることで、自分の思う味や香りにするにはどうしたらよいか?という発想が良いと思っています。


ちなみに、昆布のうま味成分はグルタミン酸というアミノ酸ですが、その他のアミノ酸にも固有の味があり、それらの合わさった味が、昆布の味と言えます。グルタミン酸は水溶性、つまり水に溶けるため、温度を上げなくても、時間をかければ溶け出します。60℃というのは、乾燥食品である昆布を水で戻しながら、昆布の組織の中にあるグルタミン酸を効率よく取り出す、という温度なのでしょう。


鰹節も同様で、味や香りの抽出を、温度と時間でコントロールできる、というイメージを持つことが重要だと思われます。


ちなみに、「だしの研究」では、どのようにだしをデザインするかという議論をしています。

そのなかで、だしのうま味に着目して、グルタミン酸とイノシン酸を1:1

にすることで相乗効果を最大化した配合をシミュレーションできるホームページも作成しました。これは香りなど他の成分については、考慮していないので、あくまで参考値として、遊んでみてください。



質問

・煮干しの出汁の水に浸けておく意味がわかりません。

 頭やはらわたを取り除いて水に浸けておくと、煮干しの性質上生臭みまで溶出させています。その後煮沸しても匂いは取り去れずにいます。より美味しい出汁の引き方を知っていればご教授願いたいです。


回答

煮干しのうま味成分はイノシン酸という核酸が主ですが、これらは水に溶けるため、水出しは可能です。一方、煮干しの生臭みは、脂質が多いイワシが乾燥工程で酸化したことで、脂質が酸化し、酸化脂質が含まれるためです。


メイラード反応の香気成分は、臭みのマスキング効果があるため、煮干しの段階で乾煎りして香ばしくしておくのはどうでしょうか。


また、脂質酸化の成分は、アルコールに溶けるものも多く、アルコールと一緒に加熱して飛ばしてしまうのも効果がありそうです。例えば、酒煎りのように、日本酒で先に煮てしまい、水を入れてだしを引くのはいかがでしょうか。



質問

・出汁をひく為に最適な鍋は何でしょうか?

 アルミの鍋でとる日本料理の職人が多いのですが、アルミは水に溶解しやすく全く適していないと思います。味が大きく劣化すると思います。


回答

金属としてのアルミニウムが、水に溶けるかどうか、と、味に影響するか、の観点で述べたいと思います。


アルミニウムは、アルカリ性や酸性で溶解度は高くなりますが、一般に酸化皮膜処理されているアルミニウムの鍋が使われており、すべての調理をアルミニウムの鍋で行ったおこなったとしても問題ないとのことが、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のHPに述べられています。中性であるだし取り調理については、影響がないと考えるほうがよいと思われます。


味に関しては、日本語および英語の科学論文で、アルミニウムの味についての報告をGoogle scholarで検索したところ、見つかりませんでした。もちろん論文が見つからなかっただけで、実際にアルミニウムの味があるかどうかは別の話ですが。


以上より、アルミニウムの鍋をだし取り調理に使用しましても、溶け出しの心配はなく、たとえ溶け出したとしても味に影響はないのではないかという結論とさせていただきます。


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