top of page
執筆者の写真川崎寛也

苦味と美食

NHK「食の起源」の最終回は、「美食」でした。


数ヶ月前にディレクターの方から連絡があり、関西食文化研究会で話した苦味についての質問に答えました。

放送ではなかなか伝わってなかったなあと思い、補足したいと思います。



苦味というのは本来嫌な味です。植物の持つアルカロイドという物質が、動物にとっては毒で、苦い味として認識されるのです。


ところが、人間が食べられるようになったのには、苦味の閾値が他の動物よりも高く、鈍感なことが理由としてあげられます。


京都大学で霊長類の研究をされていた、上野吉一先生が、旧世界ザルから新世界ザルまでの苦味閾値を調べたところ、ゴリラやチンパンジーなどの大きいサルほど苦味閾値が高かったのです。


これは、大きいサルは一つの種類の餌ばかり食べると、その地域の餌を食べ尽くしてしまうため、いろいろなものを食べるように進化したためだと考えられました。


サルは雑食と言われますが、ネズミも雑食と言われます。実はその2つの雑食には大きな違いがあります。


サルの雑食は、「いろいろなものを食べたい」雑食で、ネズミの雑食は「いろいろなものを食べれる」だけなのです。


大きいサルは苦味の閾値を高める、つまり苦味に対して鈍感になることで、さらにいろいろなものを食べるようになったと考えられます。


こういう理由で、進化してきた人間は、様々なものを食べたいし、食べれるようになったと考えられています。


以前、あまから手帖で連載していたときの「苦味」においては、低濃度の苦味を料理に使うことによって、複雑な味を表現できる考えて、いろいろなことをやってみました。


苦味のあるチョコレートを少しだけトマトソースに入れると濃厚さが増しました。「隠し苦味」のような形で料理に活かせる苦味があるのではないでしょうか。


また、基本的に味成分は水溶性なのですが、苦味物質には油で溶けるものがあります。例えばフキノトウの苦味成分は脂溶性(油に溶ける性質)なので、フキノトウから苦味成分や香り成分をオイルで抽出できると思います。


柑橘類は、香り成分も油に溶けますので、香りもある苦味油ができて面白いかもしれません。あまから手帖では、京都のキメラというイタリア料理のシェフにお願いし、


コーヒーやお茶を油で抽出したら苦味オイルができました。中国料理の辣油の作り方を応用し、湿らせたコーヒーとかお茶に熱い油をと入れます。すると、苦味成分が油の中に溶けだします。


この苦味オイルをかけると、複雑で大人の味になり、もとの料理が物足りなく感じました。


フランス料理でガストリックという技術があります。砂糖と酢を合わせて強加熱することでメイラード反応を起こす技術ですが、これを苦味が出るまで加熱して、和食とか中国料理でも使える苦味調味料ができると思います。


ガストロノミーにおいては、苦味をうまく使うことも重要だと思います。香りへの嗜好性は、学習が必要です。苦味も、好きになっていくには、学習が必要です。しかも何らかの美味しい快感とともに味わっていく経験がないと、好きになっていかないのです。


ガストロノミーを食べにくるお客は、多くの経験を積んでいることでしょう。彼らに満足を与えるためには、わかりやすい美味しさではなく、苦味や風味をコントロールした料理が必要ではないかと思います。


「苦味が印象的な皿」は記憶に残るでしょう。


以前の記事ですが、関西食文化研究会とあまから手帖もぜひご覧ください。







閲覧数:815回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page